
衛生管理者のお仕事(職務)は労働における衛生管理です。ですので、非常に幅広く、内容が深いです。筆者も衛生管理者ですが、正直なところ、会社から資格取得の打診があるまではそんなものが必要とは知らなかったですし、テキストも電話帳サイズで、今でも全容は覚えきれていません。
今から衛生管理者を目指す人も、これから衛生管理者になる人も、何をすればいいのか、まずはイメージ掴みからやっていきましょう。
労働安全衛生法上(第12条)の職務内容
まずは法令ではどう記載されているのか確認しましょう。衛生管理者は、統括安全衛生管理者の職務のうち、衛生に関する技術的事項を管理することになっており、昭和47年9月18日付の「労働安全衛生規則の施行について」第二章細部事項の第11条関係に示されています。
- 健康に異常のある者の発見および処置
- 作業環境の衛生上の調査
- 作業条件、施設等の衛生上の改善
- 労働衛生保護具、救急用具等の点検および整備
- 衛生教育、健康相談その他労働者の健康保持に必要な事項
- 労働者の負傷および疾病、それによる死亡、欠勤および移動に関する統計の作成
- その事業の労働者が行なう作業が他の事業の労働者が行なう作業と同一の場所において行なわれる場合における衛生に関し必要な措置
- その他衛生日誌の記載等職務上の記録の整備等
引用:労働安全衛生規則の施行について(厚生労働省)
わかりやすいようで、難しいですよね。少しかみ砕いて以下に解説していきます。
各項目で実施する内容
要は、従業員の健康を守るための活動をすればいいわけです。衛生管理者以外にも、産業医や統括安全衛生管理者、人事や総務などのスタッフもいますので、協力しながらできる範囲から手をつけていきます。すでに人事や総務スタッフが行っている項目もあるので、誰が行っているかいつ行っているか・保管記録はどこにあるのかの確認を少しづつ行い、把握します。従業員が怪我をしたり、体調不良にならないように健康をチェックし、設備やルールを整えていきましょう。
1.健康管理のチェック(1に該当)
まずは健康管理です。健康管理の方法はさまざまです。
- 体調が悪い人がいないか職場を巡回する
- 健康診断や特殊健康診断、メンタルヘルスチェックを行う(義務)
- ハラスメントやいじめが発生することの無いよう、研修や相談窓口の設置(義務)
- 労働者の労働時間を把握し、長時間労働をなくす
- 健康管理表を作り、出勤時に体温や腰痛など、体調について記入する制度を導入
企業は従業員の健康を守ることが法律で義務付けられています。
義務化されている部分の、職場の巡視は上長が、健康診断や相談窓口は人事や総務が行っているところもあるでしょう。これらは、どの部署が実施しているか毎年確認だけでもしておいた方がいいですね。
衛生管理者が担当する部分としては、従業員が出勤した時に、チェックできる体調管理表がおすすめです。テンプレートBANKなど、検索すると無料の体調管理表が配布されています。
2.作業環境管理と作業管理 (2と3に該当)
2.作業環境の衛生上の調査 と 3.作業条件、施設等の衛生上の改善 は日本語が似ているのでイメージが難しいです。作業環境管理・作業管理・健康管理で「労働衛生の3管理」なんて呼ばれてます。実務的にはこちらの単語を覚えた方がいいと思います。
詳しくすると、
作業環境管理:設備の設置、作業環境測定、作業環境に起因する有害因子の低減対策等
作業管理:作業方法、作業強度の軽減、作業姿勢の改善、作業の標準化、保護具等
健康管理:健康診断、健康相談、腰痛予防体操等の職場体操
作業環境の衛生上の調査
いわゆる「作業環境管理」です。
これはオフィス系で例えるならば
- 【明るさ】部屋を適度に明るく、暗さや眩しさを感じないようにコントロールする
- 【温度】部屋の気温湿度を管理するために温湿計を設置してエアコンでコントロールする
- 【騒音】音や振動レベルを測定し、対策をとる。
工場や研究施設ならば
- 作業環境測定(粉塵、放射線、気温・湿度・輻射熱、有害化学物質、空気中の酸素濃度など)
- 局所排気装置(換気設備)の設置や測定
となります。
作業条件、施設等の衛生上の改善
いわゆる「作業管理」です。
これはオフィス系で例えるならば
- 【作業時間】連続して作業しないよう、休憩時間を適宜取り入れる
- 【作業姿勢等】体に負荷がかかりにくい作業台や机を個人に合わせて取り入れるなど
工場や研究施設ならば
- 特別規則に対して作業主任者を選任する
- 保護具をとりいれ、作業に強度を持たせる
- 一度に運べる重量物の重さに制限をし、作業者の負荷を軽減するなど
となります。
3.保護具や救急用具の点検&整備(4に該当)
保護具について
※令和6年4月から、化学物質のリスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う事業場においては、「保護具着用管理責任者」の設置が義務付けられました。これについては別の記事で説明していきます。
労働で使用する保護具は、代表的なものに、作業服・防塵マスク・手袋・ゴーグル・ヘルメット・安全靴などがあります。作業現場で使うものが多く、オフィス関係の場合は、マスクや掃除に使う手袋などでしょうか。
まずは現場でどのような保護具を使っているかをリストアップし、どの場所に保管しているかを把握する必要があります。使用している人に協力してもらい、整備表を作成しましょう。
救急用具について
次に救急用具です。実は労働安全衛生規則の第633条で
「事業者は、負傷者の手当に必要な救急用具及び材料を備え、その備付け場所及び使用方法を労働者に周知させなければならない。
2 事業者は、前項の救急用具並びに材料を常時清潔に保たなければならない。」
と決まっているのです。ただし、令和3年に具体的な品目については規定が削除されました。各事業所で応急手当に必要と推定されるものを準備しておきましょう。
すでに救急用具が設置されている場合、こちらもどのような用具がそろっているか確認しましょう。
ただし、絆創膏や消毒液など使用期限があったり、使用して保管数が足りなくなることもあります。月に1回は点検整備を行いましょう。
4.健康保持に必要な事項(5に該当)
安全衛生教育の実施
衛生管理者は「労働者の安全又は衛生のための教育の実施に関すること」の管理を行う。とあります。
管理を行うので、実際の教育は必ずしも衛生管理者が担当する必要はありません。
- 新人への教育なら新人教育の担当者が行う
- 職長になったなら、外部講習の「職長教育」を受講
- 衛生管理者なら、外部講習の「衛生管理者能力向上教育」を受講する
という手があります。あくまでも管理です。従業員に必要な時に必要な教育を受けることを管理しましょう。
健康相談・メンタルヘルス
健康相談やメンタルヘルスが必要な場合は主に産業医(または人事)が担当している事業場が多いでしょう。50人以上の事業場ではストレスチェック制度が導入されたことも記憶に新しいです。個人情報やプライバシーのデリケートな部分であるため、取り扱う場合はかなり慎重になる必要があります。産業医への窓口を従業員に連絡できる体制を整えておきましょう。
健康保持への取り組み(THP)
こちらは事業者の努力義務となります。THP(Total Health promotion Plan)とは、厚生労働省が働く人の「心とからだの健康づくり」をスローガンに進めている健康保持増進措置のことです。
下記に例を挙げると、
- 朝礼前にストレッチする時間を設ける。
- リラックスできる休憩スペースを設ける
- バランスの良い食事がとれるよう、社員食堂を設ける
- 血圧測定を習慣化する
- 健康教育の機会を設ける
必要に応じて、衛生管理者は産業医等の保険スタッフ、人事労務管理スタッフと外部の連絡調整役に努めましょう。
より詳細は、厚生労働省が少ないページ数でファイルを公開しているのでそちらもご覧ください。
引用:厚生労働省「職場のあんぜんサイト(THP)」
5.労働衛生の統計(6に該当)
これは労災の再発防止のために実施する役割があります。労基署に報告している内容を共有しておき、統計やリスクアセスメントに反映します。リスクを下げる改善案を作り、安全委員会などで報告します。
6.同一環境下において、別々の作業への影響(7に該当)
日本語が難しいのですが、一つの空間で、隣同士が別の作業をしているときに影響がないか調べておきましょうねということです。極端な話をすると、「PC作業(VDT機器作業)をしている人の真横で鉄の溶接作業を行うなら、影響が出ますよね。環境調査をして、安全措置をとりましょう。」ということです。
7.衛生日誌や、他の記録の整備(8に該当)
こちらは「あれば」です。労働安全衛生管理に係るようなものであれば、現場と共有しておく必要があります。
その他の職務(統括安全衛生管理者に定められている)
12条に記載されていること以外には、
- 安全衛生に関する方針の表明
- リスクアセスメント
- 安全衛生に関する計画の作成
- 化学物質のリスクアセスメント
- 最低週1回の職場の巡視 (安全パトロール)
- 衛生委員会を開催し、その参加
があります。この「その他の職務」をこの記事に入れるとかなり長くなってしまうので、また別記事にて解説していきます。
個人的には、労働安全衛生法や規則の改正にも目を光らせておく必要があると思っています。ぜひ、当サイトの「厚生労働省の改正情報」の記事を参考にしてください。
まとめ
内容をそれぞれ一言でいうと、各見出しの8個+その他の5個になります。かなりボリュームがありますので、通常の業務プラス、行うのは本当に大変です。会社によって、作業内容や工程、地場の環境も全く異なってくるので、参考になる情報を探すのも、自分たちの改善活動が正しいかも判断するのは難しく大変です。人事労務担当者や、各職長、周囲のスタッフと協力して分散し、一つずつ進めていきましょう。
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